乾徳山

(山梨県:2031m)

2002年5月27日

 

 5月27日と言えば平日ではないか、まあカレンダー通りの仕事と言っても年に数回は平日だって休みになることはあるもの、そんな日の山登りである。
それにしても最近調子付いているのか、この間の雲取山に続いて2000m峰、しかも一月に2度の山行である。やはり少しいい気になっているようだ。

4月の「御正体山」の記事で、小田急始発に乗って乾徳山登山口に行くバスには乗れない、と書いたがそれは誤りだった。ネットの検索ソフトに頼りすぎたために「点」でしかモノを見ることができなくなっていたらしい。時刻表を見ればちゃんと八王子から先に乗るべき列車は乗り換え時間3分の条件ならばあったのである。いつから時刻表を軽視するようになったのか…。我ながら恥ずかしい次第である。

そんな前置きはともかく、ネットに頼っていることは確かだ。この日の天気もネットのピンポイント予報によって出陣を決意した。しかし、高尾から降り始めた雨は、大月あたりから完全に雨になった。「おいおい…」という感じだが、降ったら西沢渓谷にでも行こうかくらいの考えはあったのでとりあえず塩山で下車。渓谷行きのバスは私ともう一人のいかにもベテランと見える登山客を乗せて出発した。
バスに乗って恵林寺を過ぎた頃から再び雨。今度は本気で降ってきた。「ありゃー」と全く登山とは縁遠い天気になりつつある状態で往生際悪くバスの中でレインスーツ、スパッツを装着したところで写真の乾徳山登山口に到着した。下車したのは私一人だった。

「くそー、金かけて来たのにこの天気かよ」と半ば山登りは諦めて、徳和渓谷でも行こうかと思った途端、写真のように天気がいい方に急変した。「おー、ネットの予報通りだな」と、これなら午前中は何とかなるだろうとまた山登りに変更。こうした優柔不断さはいざとなったら致命的になるかもしれないと知りつつも、「だってこの天気で登らなかったら後悔する」と、集落そのものが傾斜している徳和地区を抜けて2キロ先の登山口を目指した。

 

写真は登山口の看板。立派なものである。ここからいきなり左上の方に登って行き、九十九折の道を進みながらぐんぐん高度を稼ぐ。樹林の中なので、急に晴れ上がり、照りつける真夏のような陽射しは回避できたが、それでも暑いことは暑い。
ちなみに、この登山に当たってはHPで検索したいくつかの山行記録を参考にしている。その内容の一例で、確かにポイントの銀晶水はほとんど涸れていた。実際に登った人が言っているのだから説得力はあるというものである。

写真はこの山の水場としてのポイント錦晶水。水は大量に背負っているので、さすがに飲むのは控えて手を差し出したところかなり冷たかった。
ここまでの道は一方的な登りだったが、雨の後にしては道が悪くなって歩きにくいということもなかった。この水場からは道の傾斜がとても緩やかになった。スタスタとペースを上げようかと思ったところでポーンと飛び出たところが次の写真である。

 

見た目は広くないが、ちょっとした広場という感じの場所に出て、目の前に大きな峰が見えた。これが国師ヶ原から仰ぎ見る乾徳山である。新緑が美しく、ところどころでレンゲツツジのつぼみも見られる。9時前に徳和集落を出て、この国師ヶ原到着は10時30分。ここまでは写真も撮ることはなかったが、この休憩中に新緑の写真を押さえることができた。

休憩の後、それまで堅実だったペースが乱れ始めた。見た目平坦に感じる国師ヶ原を扇平へ向かっている間、まるで平地モードで歩いていたことが原因だった。実は少しずつでも確実に登り勾配だったところを飛ばしたものだから大して長くない距離でも「登りか」と思った時には既に脚が張っていた。さっき休憩したばかりだというのに情けないことこの上ない。

そんな中、目を楽しませてくれたのが、今を盛りとする紫色したツツジの群落だった。扇平一体は枯れススキの斜面になっていたのでとてもこの明るい紫が映えていた。

写真は扇平という国師ヶ原から一段高いところに上がったような場所。「まあまあ平らだな」などと緩やかな登りで飛ばしていて息が切れたのは前項の通り。ここでも小休止。尾根筋に見えるツツジを望遠で撮る。雲は出ているが、切れ目から差し込む光はドラマチックである。そうした光がツツジの群落に差し込むのを待っていた。しかし、待っている時ほどこちらの思う壺にならないのは常であり、少し眺めの休憩になった。

 

扇平からはまた樹林の中に入り、坂もきつくなる。今までの登りと違うところは足元に岩が多くなってきたことである。ガスが少し出てきたかな、などと思っていた矢先、

バーン

と目の前に写真のような岩が立ちはだかった。

乾徳山は頂上付近では岩が露出している。こういうところは鎖とをペンキ印を頼りに登っていく。登り終盤に来て、なかなか味な自然の演出であった。

それにしても岩が出てきてからはスリリング。高いところに登っていることを嫌でも意識させられる。「髭剃岩」などという名の岩もあり、そこを通過する時には背中のバッグがつかえたりした。「三点支持、三点支持」と意識しながら手足を動かして岩場を通過したが、意識しすぎると変に手足のバランスがずれて、ズルッ、とやったりする。ペンキ印にも一度だけ「まさか、こんな狭いところを行けだなんて、嘘でしょう」と勝手な判断で前進したところ、崖に突き当たって後進を余儀なくされた。ここに来て疑ってはならない、と反省させられた。

その場にいる自分はもう麻痺してしまっているから改めて意識するのは(あえて)やめているのだが、端から見れば断崖の上を歩いているのと全く変わらないだろう。写真のようにすっぱりと下が落ちているところも多く、周囲の空気以上に寒気がしてくる。雨が降っているような状況ではやはり撤退する山なのだろうと感じながら登っていった。

また縦位置の写真である。岩が切り立っているのでご容赦願いたい。ガスが周囲を包んでいる間岩場をよじ登ったり、巻いたりしながら進んでいると

ドドーン

とまた岩肌が目の前に現れた。他人様のHPでも見たことのある。最後の岩場であろうと推測、高さも10メートルはあるだろう。ここまで登ってこられれば、この岩場も恐怖におののくほどのことはない。中心の鎖を補助に上へ上へ三点支持である。

「さて、最後の登りを楽しむか…」と余裕をこいた矢先、パラパラと音がして大粒の雨が落ちてきた。「濡れたらまずいなー」と、鎖に手をかけ、岩に足をかけ少し登ったところで

ドザーッ!

といきなり雨の来襲。岩は見る見る雨によって黒く光っていき、私も滑るかもしれないという事態を避けるために冷静モードを解除して「うお〜ッ」と台所に落ちたゴキブリのようにどこをどう掴んで登ったかわからないくらい一気に登りつめた。かくしてその岩を登ったところが頂上だったのでそれ以上の無謀な登りはしなくて済んだのだが、もしその先も岩場の登りがあると思うと大変なことになると思った。登った場所を覗き見ると、やっぱりいつも思うことなのだが、「落ちたらただじゃ済まないなー」という最後の岩場だった。

乾徳山頂上。岩が露出した思ったより狭い場所で私は未曾有の天候に難儀した。コースタイムはまあものの本にあるくらいの時間で踏破していて、頂上到着時刻は正午きっかり。いつもなら「さあ昼飯だ」となるパターンだが、あっという間に雨は霰交じりの霙になっていた。パタパタパタパタパタパタと吹き付ける霰は非常に痛い。飯どころではない、というのは当然だがここに来てこの天気の仕打ちはどうしたことか。腹を立てても仕方ないことだが、もう少し何とかならないものかとガスの中の頂上で見えない大パノラマを想像しながら思った。

そんな天気の中、撮った記念写真。頭が切れてかなり情けない写真になった。申し訳ない限りである。

頂上での天気はすこぶる悪い。尾根を北に進めば、水ノタルというところから左に下山道があって国師ヶ原へ進むことができるとあったが、ガスがかかった岩の尾根はスリリングなどと言う以上に危険な状況だった。2つ目の梯子を降りてしばらくいったところでペンキ印を見つけることができずに、前進を断念。未知のコースを行くより、来たコースを戻った方が安全と判断した。私にしては上出来とも思える判断だったと自画自賛。

登ってきた岩場は巻き道があるものは全て利用。どこをどう登ったかもわからないような岩などはもう絶対巻き道である。下る時に、「何だ、こんな道もあったのか…」と来る時に見過ごしていたような道もあり、反省させられた。

写真は扇平。頂上方面を見ている。天気は下るにしたがって雨が上がり落ち着いてきた。ここでは降っていなかったので、少し遅めの昼食にする。午後1時前だった。

頂上からあっさり扇平まで戻ってきたのにはそれなりの理由がある。それは扇平から道満尾根を通るコースならツツジの写真が撮れると踏んだからである。これが頂上からの未知のコースを辿ると行き着く先は国師ヶ原。これでは先が見えたも同然である。よってこれからは花の撮影だ、などと言っていると…。

ゴロゴロ

と聞き捨てならない音。お腹を壊したのではない。思わず天を仰ぐ。雷鳴だった。
それを合図としたかはわからないが、またこの標高で俄かにガスがかかり、雨が降ってきた。「まずいなー、雷は非常にまずい」と瞬時に撤退を決意。だからツツジの写真はここに載せた程度のものである。悲しい…。そして私はツツジのトンネルになっている尾根道を駆け抜けた。

まったく尾根を走るなどその場で考えても自殺行為。さっさと国師ヶ原経由で道満尾根に合流すれば死ぬような思いなどしなくても良かったのに…、と明らかに下っている地点でコース選択のミスを反省。天候も三度落ち着いたところであとはほとんど下りの尾根道を徳和へと向かう。

おお、少し登っているな、と思った矢先、「道満山」に着いた。まあ、目指して登るピークと言うより、こんな標識でもなければ通過してしまいそうな場所だった。

この道満尾根は最初の下りこそは岩屑状の道だったので注意さえすれば滑ることはなかったのだが、徳和が近づくにつれて土の道になり、雲取下山パターンに限りなく近づいていた。あそこは危ないな、と足を踏み出した途端にそこでスリップしたり、あの木で立ち止まろうとねらいをつけたらその一歩手前でスリップして危うく顔面衝突しそうにもなったりした。やっぱり下山が課題なのだ。とその時強く認識した。本当に痛い目に遭う前(遭っているのだが)に悟って良かったと、前向きに考えることにした。

徳和に無事到着。午後2時だった。尾根の「修行走」があったので結果的に大幅なコースタイムの時間短縮となった。徳和に来るバスはあと2時間しないと来ないので国道まで歩くことにした。徳和は道路が舗装されてなければこんなところに集落があるのか、という感じを受ける場所だった。まあ、写真はもういいだろうと30分歩いて国道のバス停でちょうど3時過ぎのバスに乗れた。そして予定より早く塩山に帰ることができた。

塩山でお土産を買う。「信玄餅」、妻が好きなのである。私は黄粉が黒蜜になじまないのが嫌いなのだが、平日に「山登りだ」などと出かけた手前これくらいの「気持ち」は必要だろう。そしてボーズ達にも同じ会社で作っているこれも定番の「信玄桃」を買って帰った。
こないだは6個入りを買って帰ったら、ボーズが4つ、妻が1つ、私とボンズが1つを分け合うという悲惨な配分になったので、今日は10個入りを所望した。

そんなことは山登りの内容と比べてどうでもいいことなのだが、こういうエピソードがあってもいいだろうと書いてみた。

しかし、まあ一日の山登りでいろいろあるものだと改めて思った、乾徳山行だった。

乾徳山登山 おしまい

 

 

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