三名の地球人、ディレイの姫君とミュセアの魔法使いの少年、そして元竜騎士であったカリッツァがライディストと行動をともにするようになってから10日以上が経過していました。
途中に立ち寄った尚武の街ワナルを出る頃には新たに仲間となった6名も旅商人の生活になんとかなじむようになっています。
「この白い上衣にも意味があるの?」
「―ええ。
魔法使いと聖職者は同じく白い上衣を着るけれど、意味が異なるのよ。
魔法使いが白い上衣まとうのは、自分達が呪力者ではないということを表明することでもあるの。」
「呪力者?」
「道を誤った魔法使いのことよ。
過去に、魔法使いのが呪力者と誤解されて―
場合によっては無実の魔法使いがあらぬ制裁を受けるような時代があったの。
魔法使いや竜騎士の努力でこの誤解の時代はそう長くは続かなかったけれど、この頃から魔法使いたちは自分達を呪力者と区別するために意識して白い服を着るようになったといわれているわ。
当時の彼らが自分達の上衣に聖職者と同じ白を選んだのは、魔法使いの持つ魔力は呪力者の行う忌まわしい術のため用いるものではなく、聖職者たちと同じく世界に融和し人や自然を思いやる力であることを表明するためでもあったのよ。
呪力者はもともと魔法使いと袂を分かった人々なので、かれらにとっての敵である魔法使いがと同じ白い服を着ることはなかったわ。ゆえに自然な流れとして白い上衣は聖職者や魔法使いのシンボルとなっていったのよ。
詳しいことはこの項目に記してあるから時間があるときに目を通しておくといいわ。」
アリステーゼは開いていた本の目次のなかの一行を示します。
「有り難う、アリステーゼさん。
…じゃあこの白い服を着替えるわけにはいかないわね。」
茴香は溜息をつきます。
魔法使いのである白い長衣を着替えれば少しは目立たずにすむと思っていたのです。
ディレイを出て以来、茴香は「女魔法使いの白い長衣」「魔法杖」「桜色の竜のキィ」のみっつのおかげでどこに行っても高い位にある魔法使いとして遇されていましたが、魔法の使い方どころかヴェストゥール国の常識についてもあまりよく知らない自分が高位魔法使いとして見られることに疑問を感じていたのです。ゆえにせめて一見して女魔法使いとわかるような服だけでも交換すれば人々が自分をありふれた娘として見てくれるのではないかと考えていたのでした。
しかし、アリステーゼの話を聞くと、茴香が魔法使いの杖と≪黒竜の水晶≫を持つ身である以上、一見魔法使いであるとはわからない服に着替えれば現在以上の誤解を招いてしまう恐れがあります。
もしも周囲にライディストが高位魔法使いではなく呪力者を連れているという誤解を生じさせてしまうようなことになれば、ロイとライシャにも迷惑がかかってしまうことでしょう。
「そうね。キィがいる以上、どうしたってあなたが高位の魔法使いであることは周囲にわかってしまうわね。」
「―無理もないわ。
キィ、大丈夫よ。
あなたを捨てたりはしないわ。」
茴香はキィの頭をなでました。
キィはもとはユリニエールが連れていた竜でしたが、もとの主人であるユリニエールは目覚めたばかりのキィを置き去りにして、異種族の娘と一緒にヴェストゥール国から…いいえ、この世界から姿を消してしまいました。
そのためかキィは今でも時折また置き去りにされるのではないかというような不安をこめて茴香を見つめることがあるのです。
「なかなかの説明上手じゃない。」
昴が馬車の中にいるふたりに声をかけます。
「昴。」
「スバルさん。」
乗馬の方法をおぼえた彼女は最近では昼間の移動時間は馬車ではなく馬上で過ごす方が長いのです。
「昨日も思ったけど、パールって先生向きかもね。
もうすぐ休憩時間よ。
炊事道具を出したらもう一度来るわね。
玲、もうすぐ休憩よ。前の方の人達にも伝えて。」
昴は隊の護衛のなかにいる玲にも声をかけます。
隊が止まったのはそれからしばらくの後でした。
数名の男性隊員が炊事用具が出すと、ライシャたち女性が昼食の準備にとりかかります。
炊事用や夜営に使う道具は他の積荷とは別にしてあるので、荷を解かなくても簡単に出し入れすることができるのです。
女性たちが食事の準備をしている間、ロイたちも遊んでいるわけではありません。
護衛の当番あたっていない者や商い専門に担当している者はこの間にも仕事の段取りをつけたり、短時間でもできるような手合わせを行っています。
カリッツァが玲の方に瞳を向けます。
昼食前の手合わせ合図です。
彼は昴と玲を見たときにふたりの武術に関する素質を見ていました。
ふたりに興味を濕したカリッツァは、現在は時間があるときには玲と昴に武術の手ほどきを行っているのです。
カリッツァの合図を見た玲は話していた若者たちと離れて元竜騎士がいる方に移動しました。
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