3人が建物に入ろうとする頃、表の騒ぎも一段落した。
「ソリアナール殿、彼らはいかがいたしましょうか?」
衛士のひとりがソリアナールのもとに来た。
「治安局に連絡する。それまでは彼らの身柄はお前たちにまかせよう。
姫君方は先に中へお入りください」
家令は茴香とアリステーゼに建物に入るように促してから移動した。
エリダイルの仕事を手伝うこともあるソリアナールは、捕えられている五人がこのような暴挙に及ぶ影には理由があるように感じたのだ。彼の勘があたっているのならば、治安局の者が来る前に彼らの弁護のためにもそのことを聞いておく必要がある。
―エリダイルが街の人々の陳情に耳を傾けるときのように。
一方、彼に促されるがままに先に屋敷内へと入った二人は、そろって息をついた。
「ありがとう…」
「え?」
突然のアリステーゼの言葉に茴香はきょとんとして彼女を見た。
「私のことから気を逸らしてくれたでしょ?」
「ああ、その事ですか…」
気にしないで下さい…と茴香は微笑む。
「私の名はアリステーゼ。この町を治める街長の一人娘です」
「街長の?…それで…?」
茴香はようやく納得がいき、苦笑した。
『姫君のおしのびの外出』というものは、今日までは茴香にとっては本の中の出来事でしかなかった。
本の中では、小さな冒険に挑む姫たちは大なり小なりいろいろな事情を抱えつつも城からは出られないという状況下にあるのが常だった…
ディアルド家―ディレイの長の家―の金髪の娘も、深い理由があってこうしたことに踏みきったのだろうか。
本当は街の外に出ることを試みようとしていたのだろうか。
いや、もしかしたらエリダイルの存在が絡んでいるのかもしれない。
一方、アリステーゼの方はティセリアが持ってきてくれたお茶やお菓子を前にしながら茴香を静かに観察している。
茴香はそのことに気づいていながらあえて気づかないふりをした。しかしずっと見つめていられるのもなんだか恥かしくなってきて、飲みたくもないのについついお茶をすする。
長い間沈黙が流れ、なにか話したほうかいいのか…と茴香は会話を探す。
「………そういえば、アリステーゼさん…は、散歩でもしてたんですか?」
茴香はあえて『散歩』と言った。
アリステーゼは思わぬ問いに思わず肩を揺らした。
「あ、まあ…そんなところね。」
幾分固くなったその表情に、「ああ、いろいろとあるんだな」…と茴香は思った。
でも、ここでそれを突っ込んで訊くのも失礼だろう。
とりあえず別の話題を振ろう…としばし考え込む。
「街長の娘って事は、この町での生活は長いんですよね?」
「え?ええ…」
突然の問いかけにアリステーゼは驚く。
「だったら、この町や周辺の事を教えてもらえませんか?私、まだこのく………町の事とかは良く知らないから」
国…という言葉を慌てて避け、茴香は苦笑いを浮かべた。
それに応じるようにアリステーゼはしばし考え込んでから口を開いた。
「そうね…何からお話したらよろしいかしら。
わたしたちフォーテイルは陸上にディレイのような都市をたくさん形成しているの。湖や河を隔てて建設された都市間は地下道で連結されているから移動の心配は不要よ。
この大陸のフォーテイルの諸都市を統括しているのがメレルの都ね。
各都市はディレイと同じく、街の長とその補佐となる副長の連携で統治されているわ。
現在、ディレイではディアルド家の家長である父が長を、クローナ家の家長のエリダイル様が副長の位に就いているの。
サネモリ家は、あなたの故郷ではどの街の統治に携わっているのかしら?」
茴香は一瞬この問いに対してどう出るか迷った。アリステーゼは茴香を「自分と同じ名家の姫」とみて話を進めているのだ。
「………?」
突然黙り込んでしまった茴香にアリステーゼは首をかしげた。
「どうかしましたか?」
「ちょっと日本を思い出してしまって…。誰にも何も言わずにどこかに消えてしまって、きっとみんな心配してる…」
アリステーゼの問いに答えるために言葉を整理するうちに、茴香は日本にある自分の家のことを思い出していた。
日本では今頃、唐突に失踪した茴香を探して騒ぎになっていることだろう。
成輝高校では過去にも茴香と同じクラスの女子生徒、晟輝昴の常識で考えると不可解としか言えないような不思議な失踪事件が起こった事があった。
学校では「女子生徒の新たな行方不明事件」ということで、昴のとき以上の話題になっている可能性もある。
しかも茴香はその日のうちに帰還した昴の場合とは違い、ディレイで一夜を過ごしているのだ。
改めて自分の身に起こったことを認識してしまうと、気分はどんどん重くなってきた。
これから自分はどうなるのか。
これから自分はどうしたらいいのか。
自分はいつか日本に帰ることはできるのか………。
考えれば考えるほど不安は増してどうしようもなかった。
でも変える方法は今のところない。
しかし、ここに来る事ができたのなら帰ることもできるのではないか。きっと何か、帰る“きっかけ”があるはずだ…と、茴香はふんだ。
「あ、アリステーゼ…さん。ここで………、この土地で何か変わった出来事、とかありませんでしたか?」
アリステーゼは首をかしげ、しばらく黙った。
何年間も自分の住まう屋敷から出たことがなく、世界の動きを知る時も、いろいろな街からディレイに届く書状や、会議のことをまとめた議決書などに頼るしか術がないアリステーゼには、ディレイの中で起きた細かい出来事についてはどうしても疎かった。
その議決書の記録についても、この屋敷に来るまでに自分の目で見てきた街の様子を考えると信憑性を疑いたくなる部分がある。
しかし、ここはディレイの副長の家系であるクローナ一族の屋敷。もしかするとディアルド家にあるものとは違う形の記録があるかもしれない。
「キョウカさん、あなたはエリダイル様から書庫に入る許可は得ていらっしゃるかしら?」
各種の記録、書物、地図などを併用しながらであれば、自分の屋敷の記録の信憑性を確認できるばかりか、茴香を混乱させることなく彼女の疑問を解くこともできるかもしれない。
「書庫…ですか?」
茴香が驚いた様子でアリステーゼを見返した。
そして、小さく首を横に振る。
「私は昨日ここに来たばかりなのでそういうことは…」
「ここに?」
茴香の言葉に違和感を感じ、アリステーゼは彼女の言葉を反芻する。
先程から茴香の話す事にどこか違和感を感じるのだ。
ニホン…消える…心配…
「もしかして貴女は…ティセナ湖の『中の島』から水を渡って来られた方なのですか?」
「この街の近くにある、あの湖がティセナという名前なら…仰言るとおりです」
アリステーゼは無言のままで茴香を見た。 不安げな瞳をした本人を目の前にすると、「お父様はアレクシス殿に異世界の殿方の召喚を命令なさったのに、あなたは姫君よね?」などとはとても言えなかった…。
その頃、エリダイルとともに謁見室を出て、別室…ディアルド邸内にあるエリダイルの執務室で失せ物を見出す術を使ってアリステーゼの捜索を行っていたアレクシスは表情を緊張させた。
「姫君はご無事なのか?」
「無事は無事だが…」
「だが?」
エリダイルは首をかしげた。
「どうやら…君の屋敷にいるようだ」
エイダイルは目を見開いた。自分の屋敷に来ているなどとは思いもよらなかったからだ。
「姫君は何を考えているのだ…?」
エリダイルは困惑した表情で考え込む。
「とにかくここで考え込んでいてもしかたがない。姫君を迎えに行こう…」
しばしの間を置いて、そう言った彼の顔には相変わらず困惑の色が伺えた。
だが、一度決めてしまえばその行動は素早い。
すぐにディアルド邸を後にして自分の屋敷へと向かった。
可能な限り急いで自邸に戻ったエリダイルが門の前で見たのは、主人の早すぎる帰宅に面食らっている門衛たちと、魔法使いに属する者が着用する上衣を着た若者だった。
「午前中に来客はなかったか?」
「客人はありませんでしたが、暴漢に拉致されかけていた女性を保護いたしました」
「…その女性の特徴はわかるか?」
「淑やかそうな金髪の若い婦人でした。おそらくは名家の姫君でしょう」
「………やはりそうか………
ところで、君はたしかアレクシスのところの―」
「トリフュスです。
先程、長の屋敷の件について連絡が入りましたので、急ぎこちらにまいりました」
アレクシスのところで幾度か見かけたことのある紺色の髪の男性は深々とお辞儀をする。
「では、あの御方がここにいらっしゃることも?」
「はい、聞いております」
あえてアリステーゼの名を伏せて問い掛けると、彼は即座に頷いた。
「そうか、ではとりあえず中に…」
エリダイルは彼を促しつつ、門衛たちが開いた扉をくぐる。
主の帰宅に気付いて出てきた使用人にアリステーゼの居場所を聞くと、彼を伴ってその部屋へ向かった。
「ええ。ディレイはティセナ湖のほとりにあるわ。ティセナの湖底にもセレンダイル族が暮らしているの」
アリステーゼの言葉を聞いて茴香がふと思い出したのは、小舟で湖を渡る際に感じていた気配だった。やはりあれは気のせいなどではなかったのだ。
「セレンダイル族って…そんなに恐ろしい種族なのですか?」
「そう認識しておく方が賢明ね。今はフォーテイルとセレンダイルは完全に分断されているから何の脅威も感じずにいられるけれど、記録によると過去には壮烈な戦いがあったということよ。
ディレイは古代の戦いの折に、フォーテイルの最初の水際の出城として建設された街なの。
当時、砦を指揮していた将がディアルド家の始祖なのよ」
扉の外で音がしたのは金髪の姫が次の説明に移ろうとした時だった。
さほど間を置かずして、扉がノックされる。
どうも使用人のそれとは違う様子に二人は一瞬顔を見合わせ、茴香が返事を返した。
「失礼致します」
そう言って入ってきたのはエリダイルとトリフュスだった。
二人の顔を見た瞬間、アリステーゼは顔を強張らせた。
「あ、エリダイルさん……」
最初に言葉を発したのは茴香だった。エリダイルは茴香に一礼してからすぐにアリステーゼと向きあった。
アリステーゼはエリダイルがまっすぐこちらを見ているのに対し、視線を地に落としていた。
「姫君、長が心配していらっしゃいますよ」
アリステーゼは視線をそらしたまま小さなため息をついた。
「…愚かなことをしましたが、それよりも早急に確かめなければならないことがあります。
エリダイル様、クローナ邸に保管してある街の記録をお見せ願えますか?」
「いいえ、今は自邸にお戻りになり、父君に無事なお姿をお見せすることが先です。姫、御身はあなた一人のものではないのですよ」
茴香はエリダイルの口調に驚いていた。彼がこんなにきっぱりとした口調で話すのは初めて見た。
昨日の彼の話し方からは想像も出来ない口調だ。
アレクシスからの連絡を受けてここに転移して来たトリフュスは、いつもは温厚なエリダイルの口調が自然と強くなってしまう理由を知っていた。
今日の日が落ちるまでには、なんとしてもアリステーゼを無傷のままでディアルド邸に連れ帰らなければならないのだ。
「………分かっています。日が落ちるまで…夕刻までに帰らなくてはいけないことは…。それでも、どうしても確めたい事があるのです」
「姫…」 キッと顔を上げ、エリダイルを見つめるその視線はとても強いものだった。
彼女は屋敷に外に出たのは久方振りだったはず。
久方振りに目にした街の様子に何かを感じたのだろうか?
彼女は聡明だ。きっと何かを感じ、それを確かめるために街の記録を…などと言い出したのだろう…。
「分かりました」
エリダイルは小さく息をつきつつもそう答えるしかなかった。
「…しかし…姫君のお気持ちはお察しいたしますが、これは申しあげなければなりません。
あなたの侍女長の身を少しでも案じる気持ちがおありならば、一刻も早くご帰還ください」
「今回の外出はわたしの独断で行ったことです。フェラーダは関係ありません」
「長はこの一件を、あなたの侍女長の職務怠慢の結果と判断しました。ですから、あなたが彼女の身を少しでもお案じになるならば、一刻も早くお屋敷に戻って父君にご無事な姿をお見せし、あなたの侍女長が『水に流される』ことになる前にお口添えをお願いします」
これを聞いたアリステーゼは深刻な表情をして黙りこんでしまった。
そう、エリダイルがこんなに熱くなるのは大抵は誰かを守ろうとする時なのだ…
そんなエリダイルと思い悩むアリステーゼの様子をうかがっていた茴香は、この「水に流す」という言葉が日本で使うものとは意味が大きく違う事に気付いた。
「この街の記録は後日必ずお見せするとお約束いたします。ですから今日のところはお戻りを…」
「………その前に、身勝手をしているのは重々承知の上で、もう一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
しばしの間を置いて、アリステーゼはそう切り出した。
「私に出来ることならば…」
エリダイルは重々しく頷く。
「では、今回、私がこの街の記録を見たいと言い出した事を誰にも言わないでください。そしてそれを私に見せると約束した事も…」
「…それはなぜ…?」
「私は真実が知りたいのです。父の…誰かの手で捻じ曲げられた真実を知りたいとは望んでいません」
「姫……」
アリステーゼは立ちつくしているエリダイルの目をじっと見つめ、そして、にっこりと微笑んでみせた。
その目は言葉にならない彼女の決意を語っていた。
「わかりました、資料の件は姫君の望むがままにするとお約束いたしましょう」
「っ!ありがとうございます」
エリダイルの言葉にアリステーゼは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「…では、私は屋敷に戻ります。ご迷惑をおかけ致しました」
再び真剣な表情に戻ると、彼女は皆に頭を下げた。

「エリダイル様、アリステーゼ様、お送りしましょう。この輪の内側にお入りください。師が待機している場所に転移いたします」
紺色の髪の魔法使いは転移魔法を行うための光の輪を床に描いた。
「キョウカ姫、暫く出かけてまいります」
「待ってください。その輪はふたりしか運べないのですか?」
「ディレイの内側でしたら何人でも運ぶ事ができます」
「でしたら―わたしも連れて行ってもらえませんか?」
茴香は意を決してそう申し出た。
トリフュスの魔法の師匠が昨日エリダイルが言っていた魔法使いであるならば、そしてその魔法使いに今会うことができるならば、少々危険であってもこの機会を逃したくはない。
茴香の真剣な眼差しに何かを察したのか、トリフュスは彼女を光の輪の中へ導いた。
光の中で流れる呪文。
「アル、ティエラ、レド、ロン、マデール…」
何か懐かしいような、どこかで聞いたことがあるような響き。それはまるで海の底から呼びかけるように、茴香の脳裏に響き渡る。
「……。私を呼んでいるのは、誰?」
「キョウカ姫!」
「キョウカさん、お気を確かに」
ここは何処だろう…。魔法で転移されたのだろうか…。
気がついた時にはエリダイルに抱きかかえられ、アリステーゼが心配そうに自分の顔をのぞき込んでいた。
「わ…わたし…?」
わけがわからず、茴香はあたりを見回す。
「大丈夫ですか?」
エリダイルが心配気に問い掛けてくるのに頷きで返すと、皆一様に安堵の表情を浮かべた。
「ここは…」
茴香は改めて周囲を見回した。誰かの書斎のようなこの部屋には全く見覚えがない。
「わたしがこの屋敷で執務に使用している部屋です」
エリダイルは茴香が身を起すのを助けようとして手をさしのべた。
「アリステーゼ姫、おかえりなさいませ。初めまして、異世界から来られた姫君」
一同の背後から別の人物の声がした。振り返った茴香の瞳に飛び込んだのは黒い髪をしたひとりの男性。
男性はディレイの長を訪ねるということでいつもの白い上衣を礼装用の服に着替えていたが、携えている杖を見れば彼が魔法使いであることがなんとなく分かった。
それは、彼の杖が自分たちをここへ連れてきてくれたトリフュスの持っている杖とそっくりだったから…。
「トリフュス、よくやった。時間の方も大丈夫だ」
茴香は自分をここに連れてきてくれた紺色の髪の魔法使いに話し掛ける黒髪の魔法使いを凝視してしまう。
その視線に気付いているのかいないのか、二人の魔法使いは手短に話を済ませ、トリフュスは皆に一礼して部屋を出て行った。
「あ………」
茴香はバタリと静かに閉まった扉を、少し見つめていた。
エリダイルはそんな茴香の様子を見ていた。そこにアリステーゼが話しかけた。
「…エリダイル様、フェラーダの無実を証明しないと…」
「はい。アリステーゼ姫、申し訳ありませんがその前にもう少々時間をください。
キョウカ姫、彼はアレクシス。ディレイの魔法使いの司です」
エリダイルは茴香にアレクシスを手短に紹介した。
「はじめまして。ええと…魔法使いさ…司―様?」
「アレクシスで結構ですよ。このたびはこちらの落ち度であなたには迷惑をかけた。
エリダイル、急ぐのだろう?行っている間に、彼女に召喚の件を説明しておくよ」
「アレクシス、頼む。ではアリステーゼ姫、行きましょう」
金髪の姫が頷くとふたりは部屋を出た。
目的地は、愛娘を案じるディレイの支配者が彼女の乳母サティリエと侍女長フェラーダを前にしている部屋だ。
エリダイルの執務室がある一階から上へと続く階段にかけて、壁には堕天使の肖像画、床は魔法陣が描かれた紫色の絨毯で敷き詰められ、天井からは薄紫色をした炎が燃えているランプが数個吊されている。
いつも見慣れた光景とはいえ、初めて見る者にとってはどこか不気味な印象を与える。
紫色が好きなのだろうか…。
あの御方の趣味はよく分からない。
エリダイルはそんなことを考えつつ眉をひそめたが、実は紫―厳密には淡い藤色―は、アリステーゼが7歳の頃に、姫の弟になるばずだった男の子の出産の際に赤子と一緒に天に召されたディアルド夫人が好んでいた色だった。
とはいっても、夫人が世を去ってから何年も経過した現在、どれだけの人がそのことを記憶しているのだろうか…。
アリステーゼはエリダイルとともに廊下を急ぎながら、父のいる部屋にたどり着くべく気が急く一方で、彼女自身も気付かないうちに、漠然とこの廊下がもう少し長ければ…と考えていた。
―こんなときになんてことを考えているの!?この緊急時に廊下が長かったら困るじゃないの―
自分の考えていることの恐ろしさに気付いた姫は慌てて後者の思考を打ち消した。
母親同然のサティリエと、友人同然のフェラーダが、今朝アリステーゼが全くの独断で行った行動の責任を取らされそうになっているのだ。暢気なことを考えている場合ではない。
キッと前を見据えると、幾分歩調を速めて廊下を進む。
時折すれ違う屋敷の者たちは心配気な表情でそんな二人を見ていた。
そんな視線に気付きつつ、二人は豪奢な扉の前に行き着いた。
アリステーゼは躊躇うことなくその扉をノックする。
「お父様、アリスです。入ります」
中からの返事を待つことなく、アリステーゼは中へと入った。
エリダイルもそれに少し遅れる形で入室した。
「今日は心配をおかけいたしました」
「アリス…」
ディレイの長は席を離れてふたりの女性の元を通りすぎ、娘に近づいた。アリステーゼに向けるまなざしは、数時間前に謁見室で人々を怯えさせていた同じ人物のものとは思えない。
「本当に無事でよかった…ウィステリアのように失われることになったらなんとするか…。
しかし、なんて格好をしているのだ?フェラーダは仕事を怠けるばかりか、女主人に選ぶ服の知識まで欠けているようだな」
着替えの時間がとれなかったため、金髪の姫は外出時の簡素な格好のままで父の元へと赴いていたのだ。
「…いや、新調の頃合なのだろう。誕生日も近いことだ。ロムルにレースを頼むとしようか」
ロムルとは、ディレイとは距離があるものの、高価な織物や精緻なレースで有名な街だ。
「お父様、それよりもサティリエとフェラーダの事ですが…」
『ロムルのレース』と言う言葉に彼女は大喜びするだろう…と考えていた街長は、予想外の娘の反応に、幾分面白くなさそうに側に控えている二人の女性を一瞥した。
「ん?あ…ああ、まだそこにいたのか」
…そんな無責任とも取れる冷たい言葉を添えて…。
「今日は娘が無事に帰ってきたから良しとするが、二度とこのようなことをくり返せばその命であがなってもらうぞ。さっさと下がれ」
「は…はい」
街長の冷たく、そしてきつい物言いに、サティリエとフェラーダは深く頭を下げるとそそくさと退室していった。
参加者:れいあさま 瑞穂さま
ミントブルーさま ミール・エア・リーデ
編集:れいあさま
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