中央アジアを舞台にして、10人の神々と土着の人々が織り成すドラマを集めた短編連作シリーズです。
隨分前に刊行された作品なので単行本を入手するのは難しいかもしれませんが、21世紀に入るか入らないかという頃に復刻版が刊行されました。
この単行本には「ヘディンの手帳」「ソグディアナの娘」「ヤグノブの谷」「ウィグルの砂」「青い石榴」の5編が収録されています。
「ヘディンの手帳」
ロプ・ノール湖の謎をつきとめたともいわれているスウェーデンの探検家スウェン・ヘディンの手帳にはさまれてた不思議な布が生まれた経緯です。
少女ムムルの姉セラには恋人がいたのですが、セラは恋人からの求婚を受けたときには病気を抱えていたのです。事実を自分のなかに隠したまま、何も言わずに家族のためだけに生きた姉の心を絨毯に託そうと決意したムムルに、白い神々のひとりが力を貸すのでした。
「ソグディアナ〜」「ヤグノブ〜」「ウィグル〜」はこの絨毯のシリーズです。
絨毯のシリーズは、「その人それぞれに相応しい幸福の器」を物語る小連作でもあるのではないでしょうか?
「ソグディアナの娘」
神アーサーとムムルが一夜で織り上げた白い絨毯はソグドの国に渡ります。
あるとき、アラブの侵攻によってソグディアナの国は滅亡の危機に瀕します。
この危機を越えることができたのは白い絨毯が守ってくれた姫サリアただ一人。タジク族の青年に助けられた姫によってソグディアナの王家の血脈は守られるのでした。
ソグディアナは実際に存在した通商民族で、かなり手広く通商活動を行っていたといわれています。かれらのなかには、祖国から遠く離れた中国に東の拠点を築き、異国で成功した者もいるといわれています。また、ソグド族は通商活動の副産物として、美しい錦の織り方を世界中に伝えたともいわれているそうです。
アラブによる侵攻のために彼らは歴史の表舞台から姿を消すことになるのですが、彼らの持つ習慣の一部などは現在でも中央アジアの人々のなかで生きているものもあるといわれています。
「ヤグノブの谷」
サリアの血を継ぐ人々のなかにチェリンカという娘が生まれました。
無意識のうちに白い絨毯の出所を感じていたチェリンカは、ある日侵攻を生き延びたソグディアナの末裔が暮らすヤグノブの谷を目指して旅に出ます。
この地名も実際にあるものです。
「ウィグルの砂」
チェリンカが旅の道連れであったシルバに譲った白い絨毯はウィグル族の砂漠の村に落着きます。
村の水源が失われようとするとき、神が水を呼び出すのを見た少女ユイミンは、自分の家にあった絨毯と、新しい水源との取引を神に持ちかけるのでした。
「青い石榴」
ウィグル族の娘カルムは種なしの石榴が実る木を大切にしていました。
ある年のバザールで、カルムはウズベク族の若者シュラと知り合います。
ふたりは次の年のバザールで再会することを約束してそれぞれの家路につくのですが、その年に事件が起きるのでした。
この単行本のなかでは比較的童話的な展開の短編かもしれません。
「シルクロード」の世界へ―
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