×××××××××× 路地裏のタコス売り ××××××××××
第3貢 「波乱の展開」

血だらけの平山さんを、CAさんが呆然と見つめている。
「平山さ〜ん…」
ジェリーさんも、CAさんの傍らに座り込むと、平山さんの頚動脈にしばらく指をあてがうが、やがて静かに、首を横に振った。
「そんな…」
ショックで、倒れそうになったCAさんを、慌ててオオハラさんが支える。
「どうしてこんなことに…」
職人も、一様に皆ショックが、あまりにも大きすぎるらしい。それはもちろん、私たち招待客も同じことだった。
「皆さん、どうか落ち着いて、もう少しここで待っていてください」
ナルイさんやシュウさん、他のスタッフの皆さん何人かが、いち早く気をしっかり持ち直し、周りへの対応に追われていた。
「平山さん…」
一方、平山さんの周りには、まだ何がどうなっているのかも理解できずに、立ち尽くす職人や、スタッフが数人。

何分ぐらい経ったのだろう。周りには、とんでもないことに巻き込まれたと、スタッフに詰め寄る人もいたりしたが、とにかく私は、そこにぼーっと、座りつづけていた。
「もう、これから先、平山さんのおいしいタコス食べられないんだ…」
人間、放心状態になると、自分でも、おかしなことを考えてしまうもんなんだなと思う。

「はい、この部屋にいるすべての皆さん、これからはすべて、私の指示にしたがってください!!」
いきなりステージ上に、2人の男が現れ、片方のオジさんが、スタンドマイクを使って、私たちに、そう言い放った。
「あの…?」
困惑した様子で、ジェリーさんが話し掛けると、オジさんはニヤリと笑い、再びマイクを使って、
「私は、警視庁の大山。こっちは、秋山です」と、宣言した。
「刑事さん…でしたか」
ジェリーさんが戸惑うのも無理はない。そのオジさん…、いや、大山刑事って、どちらかといえば、魚屋さんって風情だと思うし…。
「と〜に〜かく!!私が来たからには、もう大丈夫です。どれどれ、死体を拝見しましょう」
大山刑事は、つかつかと平山さんのもとへ、歩み寄った。
「うむ〜」
「心臓を一突きにされてますね。ショック死ってカンジでしょうか?」
秋山刑事の言葉に、大山刑事が、ふんふんとうなずいている。
「そうだな〜。とりあえず後から、司法解剖だ。運び出せ」
「わかりました」

「え〜、現状から見ても、殺しは間違いないでしょう。したがって、この中に犯人がいると、私は推測します」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!!俺たちの中に犯人だなんて、そんな〜!!」
大山刑事の言葉に、ジェリーさんが、今にも掴みかからん勢いで抗議している。
「大山刑事、そう考える根拠はなんですか?」
ナルイさんの言葉に、一瞬ひるんだ大山刑事は、「それをこれから調べるんじゃないか。さあ、事情聴取だ」と、強引に話を推し進めた。

「なるほど〜、突然の停電があって、灯りがついたときには、もう被害者はここに倒れていたと…。ではでは皆さん、
電気が消える前、自分がいた位置に戻ってください」
大山刑事の言葉に、職人やスタッフの皆さんは、わらわらと移動をはじめた。
あの時は、平山さんの挨拶の真っ最中。同じステージ上には、進行をしていたジェリーさん、解説者のジュンイチさん、それと審査員のノリさん・ノリヒトさん・ホシノさん・キョウコさん・ヒロミさん・ケイカさんがいた。
そして後ろのキッチンスタジアムにいたのは、ナルイさんやアシスタントの人たち。それから、出来上がったタコスを、徐々にワゴンで運びつづけていた、タカクさんは平山さんの斜め後ろにいた。


「あの、2階にいらっしゃった、招待客の皆様は、容疑に関係ありませんよね?ではもう…」
「確かに、真っ暗闇の中、わざわざ階段を下りて、舞台袖を通って、このステージに上がるなんてことを、この短時間で出来るわけありませんからね。容疑からは、外れるでしょう。でも、何か犯人につながる有力情報を、例えば何か物音を聞いたとか、この後思い出してもらえるかもしれませんからね。もうしばらく、お付き合い願いますよ」
ジュンイチさんの私たちへの気遣いは、あっさり否定されてしまった。
中には、「帰してくれ」と訴える人もあったが、私は最後まで、ことの成り行きを見ていたかった。
あの、世界の宝ともいえる平山さんを殺す犯人なんて、絶対に許せない!!
そいでもって、私はちょっとだけ、人より好奇心も強いのだ。こういうの、探偵気分っていうか。
うぅっ…、やっぱ不謹慎だよね。平山さん、ごめんなさい。でも…。

「では次、停電していた間の皆さんの動きを教えてください。はい、再現いきますよ。死体が、そこにあると思って、
皆さん、そのとおりに動いてくださいね。よ〜い、アクション!!」
みんなしぶしぶだったが、大山刑事の言葉に従う。
暗闇の中のことで、よくわからなかったが、こうして見てみると、案外皆さん、動き回っていたんだなということがわかる。「大丈夫ですから」と招待客を気遣う人や、スタッフに激を飛ばしながら復旧作業にあたった人、呆然と立ち尽くしていた人、意味不明な行動をしていた人、それぞれだ。
「最終的に、灯りが点いた地点で、立ち止まってくださいよ」

ステージにキッチンスタジアム、あと、スタッフが移動のために使ったり、パーティーの進行具合を見守っていた舞台袖などは、全部1階で、同じ平面の地続きだった。ある程度慣れた人間なら、多少の異動はできただろうし、つまり、1階にいた人間なら、誰でも犯行が可能だったと、言えなくはない。
実際、かろうじで停電前タコスを運んで、2階の客席に来ていたシュウさんや、ブレーカーを見に行ったスタッフの人など、数人が容疑から外れただけだった。
こりゃ、犯人の絞込みも、大変そうだな〜。
「大山さん、どうするんですか?これじゃあ、犯人わかりませんよ〜」
秋山刑事の、弱気な発言に、大山刑事も渋い顔だ。
「とりあえず、もう1度聞く。停電時、自分は平山の側を通ったっていう人間、手をあげてくれ」
手を挙げたのは、ジェリーさん・ホシノさん・ノリヒトさん・ハンダさん・タカクさんだった。

個別事情聴取その1 〜ジェリーさん〜
「君は、どうして平山の側を通ったんだね?」
「ど〜してって、俺は、2階席のお客様に、声をかけさせてもらってましたからね。それであちこち、動き回ってたんですよ」
「でも、声だけ出しといて、ホントはズブッと…」
「失礼なこと、言わないでくださいよ。俺は、平山さんに、すご〜く良くしてもらってたんですから」

個別事情聴取その2 〜ホシノさん〜
「あなたは、はじめステージの審査員席に、座ってたんですよね?」
「えぇ」
「じゃあ、どうして停電後、厨房の冷蔵庫の前なんて、元いた場所より1番離れたとこにいるんですか?わざわざそんな必要が、何故あったのですか?」
「それは俺だって、何か力になれたらなと思って。できることないかなっつ〜か、とりあえず、じっとしてはいられなかったんだよ!!大丈夫か?って、タコス作ってた連中に声かける間に、自然とそこまで行ってたんだよ」

個別事情聴取その3 〜ノリヒトさん〜
「あなたは何故、平山さんの側を取ったんですか?」
「僕は、ヨシコのことが心配で、袖にいたヨシコを迎えに行ってたんだよ」
「ヨシコ?!」
「ね〜。無事でよかった♪」(ノリヒトさん、緑のワニを、ぎゅっと抱きしめる)
「はぁ…。それで?」
「で、すぐ戻ってきたよ」
「そうです!ノリヒトさんは、その後、電気がつくまで、隣にちゃ〜んといらっしゃいました」(ヒロミさんという人、証言。
ってか、この人もともとは、ノリヒトさんの隣じゃなかったはずなのにな〜)

個別事情聴取その4 〜ハンダさん〜 
「どうしてあなたは、ここを通ったんですか?」
「私は、向こう側の袖から、こっち側の袖へ、通り抜けただけです」
「通り抜けですか〜。何故、そんな必要があったのですか?」
「私は、大事なカメラを取りに来ただけですよ。あのハンディーカメラ、CAさんに無理言って借りてきてもらったものですからね。もし、何かあったら大変ですから。それで、慌てて取りにいったんですよ」

個別事情聴取その5 〜タカクさん〜
「あなたは、停電前に、1番平山さんの近くにいて、復旧後も、同じ場所にいましたね?」
「えぇ」
「したがって、犯人は君だ〜〜〜!!!」
えぇ〜?!こんなの、事情聴取っていうんだろうか?
「おっ、俺じゃねぇ〜よ!!」
「じゃあ、停電の間、ここにぼ〜っと突っ立って、何してたって言うんだ?」
「それなら〜」
「ふん、そりゃ〜もちろん、平山の胸に、ナイフをぐさっとやってたんだろ?」
「違うよ!!」
「うるさい、言い訳は無用だ。さあ、署に来てもらおうか」
そんな、無茶苦茶な刑事さんだな…。
「冗談だろ?タカク…」「タカクさん…」「人殺しなんて…」
「待ってくれよ!!おまえらまで、俺を犯人扱いかよ?!俺ら、仲間だろ?」
すがるように肩をつかまれたオオハラさんが、何かを思いついたようで、話し始めた。
「でもこの前、みんなで飲みに行った時、平山さんが帰った後タカクさん、『アイツ、やってやる…』って言ってましたよね?タカクさん、まだCAさんのこと、好きだから」
職人みんな、驚いたように顔を見合わせると、うんうんと深くうなずきあっている。
「おめぇ〜らよ〜、頼むよ〜。俺がいくらCAのこと、今でもあきらめきれてないからって、いくらなんでも、平山殺したりしないだろ〜」
「そういえば平山さん、最近何かに悩んでたわ…」
CAさんの言葉に、再び職人一同うなずく。
「だってタカクさん、昔俺のこと、銃で撃って、殺そうとしたし〜」
ノリヒトの言葉に、職人は張子の虎状態で、ペコペコうなずいている。
「銃?!」
「違いますよ!!モデルガンです、モデルガン」
「とにかく、君は動機も十分のようだ。さあ、逮捕だ」

「やめろよ、離せ〜!!」
ジタバタするタカクさんだが、小柄な彼は、ガタイの良い秋山刑事によって、ガッチリと押さえ込まれてしまう。
「さあ、吐け〜、吐くんだ〜。おまえがやったことを、ここで全部、洗いざらい話してしまうんだ〜」
「だから、俺じゃないって言ってんだろ」
「いい加減にしないか〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
ガシャ〜ン!!

あぁ〜、何すんのよ〜!!
ついに興奮が最高潮に達してしまった大山刑事は、近くにあった、タカクさんの運んでいたワゴンに、怒りの鉄拳を振り下ろしたのだ。そのことにより、なんとワゴンは真っ二つ!
あの上には、平山さんがこの世で最後に作った、貴重な遺作のタコスが乗っかってたというのに〜〜〜!!
「おっ、大山さん、落ち着いてくださいよ」
秋山刑事になだめられ、肩で大きく、ぜーはー息をする大山刑事は、まさしく熊そのものってカンジだ。
慌てて駆け寄った、シュウさんやナルイさん、オオハラにCAさんが、割れたお皿と、床に落ちたタコスを片付けていく。
はぁ…、平山さんのタコスが…。
「えぇい、うるさい!!コイツが犯人に決まってるんだ。いいから連れてけ〜!!」
なんなのよ、あの大山刑事。平山さんのタコスに、罪はないじゃないのよ、まったく〜。
私は、次々ゴミとして処分されていくタコスを見るうち、なんだか泣けてきた。
だって、この騒ぎで、結構なタコスがダメになった。
もしかして私が、口に出来なかったら、どうしてくれるっていうのよ〜。
「離せよ、俺じゃねえよ〜!!」
タカクさんには申し訳なかったが、私はすっかりタコスに想いをはせていた。
「これで全部ね」
CAさんが、床に落ちた最後の1個をゴミ袋に入れようとしている。
いや〜ん、それでいいから食べさせて〜。大丈夫よ、人間それぐらいで死にはしないから。
「シュウさん、これも一緒にお願いします」「これもか?」「はい」
ナルイさんが、タカクさんの後ろの、調理台の上に残っていた、一皿のタコスも、一緒に捨てるようにと、シュウさんに手渡した。
あ〜、なんであれも捨てちゃうんだろう?もったいないよ〜。失敗作か何かなんだろうけど、資源の無駄遣いはダメだってば〜。多少のことぐらい、いいじゃな〜い。あんなにおいしそうに出来てるのに…。こういうときには、さすがに職人のこだわりってヤツが恨めしい。
うぅ…、タコスプリ〜ズ〜…。

「勘弁してくれ〜」
眼下では、まだ刑事とタカクさんの、やり取りは続いている。
「あんまりじゃね〜か〜!!俺はただ、調理台のタコスを、ワゴンに乗っけて運ぶために、平山の後ろにいただけだよ。偶然だよ、偶然。それに、凶器のこのナイフはどうしたんだよ?俺が、どっからそんなもん出したって言うんだ?」
「それなら、君のしているエプロンのポケットに忍ばせてたとか、ワゴンの裏にでも貼り付けてたとか、そういうことなんじゃないのか?」
「いい加減にしてくれって。いくらなんでも、俺が刺したんなら、血だらけになってなきゃおかしいだろ?ぜんぜんどこも、汚れてないしよ、俺…」
ふんふん、確かにそれは言えてるわよね。いくらナイフは引き抜いてないとはいえ、返り血がまったくつかないっていうのは、変な話だ。
「フフッ、君のそれを使ったんじゃないのか?」
大山刑事は、タカクさんのエプロンを指差した。
「それをかざして、返り血を防ぎながら、ナイフを刺し込んだんじゃないのか?エプロンなら、取り外しも簡単だもんな。犯行後、血で汚れたエプロンをどこかに隠し、変わりに新しいエプロンにつけかえた。どうだ?」
「そんなことしてませんよ!!」
「よ〜し、秋山。辺りを探してみろ」
「はい」
秋山刑事が、キッチンスタジアムの、調理台などを、くまなく探してく。
「大山さん、ありました!!!」
冷凍庫から、秋山刑事がビニール袋を取り出した。
「開けてみそみそ♪」
「はい」
うれしそうな大山刑事の目の前、秋山刑事が、1枚の血に染まるエプロンを広げた。
「決まりだな」
残念だが、そこには「TAKAKU」のネームが、刺しゅうされていた。

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