×××××××××× 路地裏のタコス売り・番外編 ××××××××××

「夕日に向かってタコス売り」

私は、しがないフリーなライター。名前を、キョウコという。
今日は、新しく担当した仕事、「恋人実態調査」という企画の取材で、1日、街のカップルに、インタビューしてまわっていた。
のろけアリ、浮気の発覚アリと、なんだか精神的に、ヘビーな内容で、ぐったり疲れてしまった。
「今日は帰ったら、早く寝ようっと」
私はコンビニに寄って、お弁当とお茶とプリンを購入すると、家路に向けて、よろよろと歩きはじめた。

アパートの前までやってくると、そこには夕日を浴びながら、1台の古ぼけた、怪しい屋台が立っている。
言うまでもないが、いやーな予感に包まれた私は、
その前を何事もなかったように、素通りしようとした。
「お嬢さん、タコスの松はいかがですか?」
(はぁ・・・、嫌な予感的中)
恐る恐る首を向けると、そこには、おおよそ日常には不釣り合いな、全身黒のメキシカンスタイルの男が1人。
「何にいたしましょうか? キョウコさん」
男は、ニヤッと笑って、私の名前を呼んだ。
「『何にいたしましょうか?』って、いったいこんなとこで、何やって・・・」
「梅もいいけど、今日は松にしようかな。平山、松1つ」
さらに背後からは、よーく聞きなれたあの声が。
「久しぶり♪ 元気だった?」
振り返ると、そこには赤髪の小さな男が・・・、ではなく、黒髪になったノリヒトが立っている。
「なっ、なっ」
「やだな、そんなに驚くことないじゃん。俺の顔、忘れちゃったの?」
あの夜のことが、そんなに簡単に忘れられるはずはないだろうに。
私が驚いたのは、あの鮮やかな赤髪が、黒に変化していたことの方だ。
まさか、<ナスのヘたみたい> と思ったなんて、口が裂けても言えないだろうに。
「ひーらーやーまー、松タコス、作ってよー」
「坊ちゃん、今はそんな場合じゃないでしょ?」
平山は、ナス・・・ではなく、ノリヒトを、やさしく諭している。
「あの、そんな場合じゃないって、また皆さんに、何かあったんですか?」
やっぱり私は、ライター。好奇心は、押さえられない。
と、いうよりは、なんだか仲間を心配するような気持ちってヤツだろうか。
「そおそお、ジェリーがね・・・」
「ジェリーさんが、どうかしたんですか?!」
「えっ、あっ、その・・・」
私の剣幕に押されて、ノリヒトは、困ったように、平山を見ている。
「そうなんです。とにかく、キョウコさんも、一緒に来てください」
「はい? 一緒にって、どこにですか?!」
「いいから、とにかく急いで。さあ、行きましょう」
屋台から出てきた平山、私の腕を引くと、強引に歩き出した。
「ちょっ、ちょっと、平山さん・・・?」
「坊ちゃん、すみませんが、屋台の方、よろしくお願いします」
平山は、私の抗議など聞き入れず、ズンズン歩いていく。
「ええっ、またー?! しょーがないなー」
ノリヒトも、後から屋台を、ガラガラ引いてついてくる。

「お待たせしました」
広い通りに出ると、そこには1台のロケバスが停められていて、平山が声をかけると、中からオオハラが出てきた。
「お疲れ様です。あっ、キョウコさん、こんにちは」
「こんにちは」
オオハラの、いたって普通な挨拶に、ついつられて、頭をペコリと下げてしまう。
「おう、キョウコちゃん。特等席だ、荷物は後ろに置いて、助手席乗んな」
運転席から声をかけてきたのは、ホシノだ。
私は、なんだかわからないが、言われるまま、平山に荷物を預けて、助手席に乗り込んだ。
「どうだー? OKかー?」
後ろを見ると、早くもオオハラが、バラし終わった屋台を、積み込んでいた。
「よーし、いいな? 出発だー」
「おー!!」
ホシノの呼びかけに、後ろの3人もこたえている。
なんだか、楽しそうな、遠足に行くバスの中みたいだ。
「あのー、どこ行くんですか?」
私は、ハンドルを握るホシノに、恐る恐る尋ねた。
「そいつぁー、言えねーなー。なんてったって、極秘計画だからね」
「はぁ、そうなんですか・・・」
極秘計画って、何だろう?! また、人に許可なく勝手に、変なことに巻き込んでくれちゃったんじゃ・・・。
私が思い悩んでいると、やがて夕方の大渋滞につかまり、ロケバスは停止してしまった。
「ちっ、つかまっちまったなー」
ホシノが、イラつきはじめる一方、後ろは何事か騒がしい。
「平山、から揚げ、勝手に食っちゃうなよなー」
「そのように言われましても・・・。では坊ちゃんも、半分食べますか?」
「うん。あーん」
「その隙に、これ、いっただきー」
「あぁっ、オオハラが、コロッケ一人で、全部食っちまったぞ!!」
「それはいけませんねー」
だいの大人が3人で、何やってるんだろう。子供みたいで、情けない・・・。
「って、ちょっとー!! 何、人のお弁当、勝手に食べてるのよー?!」
みんなが、猿山状態で群がっているのは、間違いなく、さっき私が、コンビニで買ってきたお弁当だ。
「何やってんのよー」
「スイマセン、朝から何も食べてなかったもので・・・」
この人たち、いったいいつから、うちのアパートの前にいたんだろう。
それにしても、勝手に人のお弁当、食べていいっていう、理由にはならないだろうに。
「でも、だからって・・・」
「コラーッ、テメーら!! 人様のもの、断りもなしに、勝手に食っちゃダメだろがー」
ホシノの鋭い一喝に、誰もがビビッて、シーンとしてしまった。
「キョウコちゃん、これ、もらうよ」
恐ろしいほどの笑みを見せながら、ホシノは後ろに手を伸ばし、袋の中のプリンを取り出した。
「はっ、はい、どーぞ」
「いっただきまーす」
後ろの3人も、ホシノと同じように、手をあわせている。
もはや、逆らえまい。私は、渋滞を利用して、うれしそうにプリンを食べる男と、声をひそめながらも、再び弁当に群がる、猿山をそのままにしておくしかなかった。

やっとのことで渋滞を抜けたロケバスは、やがてある1件のビルの前に到着した。
「さあ、着いたよ」
外に出て見てみると、その外壁には足場が組まれ、工事中の張り紙も貼られている。
4人は、ためらう事もなく、そのビルに近づいていった。私も、慌てて後を追う。
コンコン。
「俺だ」
関係者以外、立ち入り禁止と書かれたドアを、平山がノックする。
「合い言葉は?」
少しだけ開けられたドアの隙間、誰かがこちらの様子を伺っている。
「山」
平山が、神妙な面持ちで告げる。
「川」
中からも、声がする。
「豊」
平山がこたえると、チェーンが外され、ドアがガチャリと開いた。
「お帰りなさい、平山さん」
中から現れたのは、ナルイだ。それにしてもこの合い言葉、どっかで聞いたことあるような気もするが、あんまりにもあんまりなんじゃ・・・。
そうは言っても、この場にいる全員、そんなことは、気にも留めていない様子だ。

「キョウコちゃん、ご無沙汰してます。さあ、どうぞ」
挨拶を済ませて、ナルイに通されたのは、まだ内装は途中といったカンジの、かなり広いフロアだ。
「ようこそ、キョウコちゃん」「お待ちしてました」
声をかけてきたのは、ジュンイチに、CAだ。
「お久しぶりです。あのー、タカさんのお体の様子は、いかがですか?」
「兄は、日に日に元気になってきてるわ。これも、キョウコさんのおかげね」
CAは、私にニッコリと微笑んで答えてくれた。
「そんな、私のおかげだなんて、とんでもないです。ところで、ここはいったい・・・?」
私の疑問に、ジュンイチさんが答えてくれる。
「あぁ、ここはねー」
「ええっ?! 買ってきてくれてないの?」
振り返ると、CAが平山に何か話しかけている。
「あれがないと、ダメだって言ったじゃないのよー」
「ゴメン・・・。でも、買いに行ってる暇がなかったからさー」
「ダメよ、あれがないと困るの」
「わかったよ。じゃあ、買ってくるね」
平山は、バタバタと出ていってしまった。アリャリャ、早くも尻に敷かれているようだ。
「で、ここはね・・・」
「あっ、はい、スイマセン」
ジュンイチの呼びかけに、キョウコは慌てて振り向いた。
「ここは、これからTNが出す、新しいタコスのお店なんだよ」
「そうなんですか」
なるほど、TNカンパニーと神波グループの決着がついてから、両者の協力関係は、うまくいっているようだ。
「じゃあ、ここの店長を紹介しよう」
そう言われて、フロアに通じる階段を降りて来たのは、
「ジェリーさん!!」

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