×××××××××× 路地裏のタコス売り ××××××××××
第7頁「事件のあとには」

辺りは静まり返っている。
そりゃそうだ。
あんな悲惨な事件を目の当たりにしたんだから。


と、会場全体が余韻に浸っていると、静かな音楽が流れ始めた。
気がつけば、スクリーン映像が変わっている。
『シュウ探偵の華麗なる推理  〜了〜』
そして、エンドロールが始まり、キャストやスタッフの名前が流れていく。

そ、そうだったぁ〜!
これはお芝居だったんだわ。
すっかり世界に入り込んじゃってた。
迫力だったもんなあ、すっかり感心してしまう。
そうこうしている間に、デザートが席に運ばれてきた。
デザートを前にして、他のお客さんも、夢から覚めたような表情をしている。

デザートのあと、最後にゆったりとコーヒーを頂く。
その時に、シェフ平山さんのあいさつがあった。
『生き返った〜』などと声がかかって、平山さんは照れて困っていた。
で、正解者の発表や商品の贈呈が続く。
そして、ジュンイチさんのあいさつで締め括って、この大がかりでヘンテコなパーティーが終了したのである。


*    *    *    *    *    *


他のお客さんたちが楽しそうに帰っていく。
私は何だか雰囲気に飲まれちゃったままで、なかなか席を立てずにいる。
ミュージカルとか見に行ったことはあるけど、こんな風になったことはない。
なかなか貴重な体験だ。

「なかなか出てこないから、何かあったのかと思っちゃったよ」
そう言いながらナルイさんがやって来た。
「楽しんでもらえたかな?」
優しい笑顔で聞いてくれる。
でも、まだ犯人の印象があって、妙に緊張する。
「はい、すっかり騙されましたし…それに、お芝居だって分かってからも、引き込まれて、本当の事件を見てるみたいで」
「そう、それは良かった〜。ところでさ、今から何か用事ある?」
おおっ、これは何かのお誘い?
「いえ。帰るだけですけど」
「じゃあさ、これから店の方で打ち上げがあるんだけど、来ない?」
ええ?
打ち上げ?
でも…、
「私がお邪魔してもいいんでしょうか。お店の人間じゃないし」
「いーの、いーの。ウチのシェフの知り合いなら、仲間も同然だし。それにね、絶対連れてこいってうるさいんだ、ホシノさんとかオオハラとか」
「はあ…」
「若い女の子があんまりいないと、寂しいんだってさ」
「お邪魔じゃないのなら、行っちゃおうかな」
あのすごい職人さんたちに会えるのは、嬉しいことだもん。
「じゃあ、行こう」
「はい」



ナルイさんに連れられて、裏口から出て駐車場に行くと、そこにはみんなが勢揃いしていた。
しかも、シェフだけじゃなく、審査員として来ていた女の人たちもいる。
お店の人じゃない彼女たちがいるのなら、行っても大丈夫だろう。
少し安心した。
ホシノさんがてきぱきと、というより迫力の強引さで、メンバーを4台の車に捌いていった。
私はナルイさんの運転する車で、平山さんとシュウさんも一緒だ。

「パーティー、本当に面白かったです。始めは本物の事件だと思って、血の気が引きましたけど」
私はまず、パーティーの感想を言った。
そしてひとしきり、芝居中のことや練習で起きたハプニングなどの話で盛り上がる。
でも、その間ずーっと、私の隣の平山さんは無反応。その上、目が虚ろだ。
「あの、平山さん?」
私がトントンと腕を叩いて呼ぶと、やっとこちらを見た。
「なあに?」
「いえ、さっきからものすごく静かだなあって…」
「危機なんだよ、2人の。坊っちゃん、俺が浮気したとか言ったでしょ?あれでCA、カンカンなんだ」
「でもお芝居の中のことだし…」
「あれね、坊っちゃんのアドリブ。しかも浮気に関しては妙に説得力のある…」
「俺たちもヒヤヒヤしましたよ。芝居は目茶苦茶になりそうだし、平山さん気の毒だし」
ナルイさんはそう言いながら、フフフッ、と笑う。
面白がっているみたい。
「裏で様子を聞いててさあ、変な汗ダラッダラ出てて。言い訳する暇はないし」
平山さんがあんまり落ち込んでいるので、私は話題を変えることにした。
「あのー、パーティーの前、電話口で怒鳴ってましたよねえ」
うおーっとぉ、気になってたもんだからつい聞いちゃったけど、全然楽しくならない話じゃん。やっばーい。
「ああ、あれ?なんだ、聞いてたんだ」
そう言って、はあああ、とため息を吐いた。
本当にまずい話題をふっちゃったなあ。
「あれ、CAにプレゼントをしようと思って頼んでた物が、なんか注文通りいかなくてさ。あんまりひどいんで、店員とケンカしちゃったんだ」
「ケンカ?平山さんも怒るんですね。恐い平山さんなんて初めて見たので、びっくりしました」
この話を聞くと、浮気の心配はなさそうだなあと思う。
ラブラブなんじゃん。
「平山さんってね、仕事中は恐いし、飲みにいくとエロオヤジなんだよ。女の子の前ではカッコつけてるだけ。でもって、CAにはベタ惚れ」
シュウさんが証言した。探偵役だった人の言葉だし、ホントっぽいなあ。
う〜ん、平山さんが用意したプレゼントって何なのか気になるけど、野暮なことは聞かないでおくべきかな。
「でも、今はそんなことより、どうCAの誤解を解くかが問題だよ…」
それからお店に着くまでは、平山さんの恋愛相談大会になってしまった。一番年上の人の相談に、後輩がよってたかってアドバイスってのも、変だけど。


*    *    *    *    *    *


そして、お店に到着。
入り口の両脇には、門松…かと思ったけど、これ門松なのかなあ。
「これって、門松ですよねぇ?」
シュウさんに聞いてみた。
「うん、門松。日本人の心だから。っていっても、やっぱりメキシコ料理の店だからさ、真ん中には竹の代わりにサボテン。でも、ちっちゃい竹がちゃんとあるでしょ?」
「あ、ほんとだ」
ででーんとそびえるサボテンの前に、低い竹がニョキニョキ生えている。
この会社の考えることって、なにかしら変なとこがあるよなあ。
「さあ、どうぞ」
平山さんが扉を開けて、エスコートしてくれた。
パッと電気が点いて、店内のホールから奥までを見回すと、それはもう、やたらと豪華に飾られていた。お正月らしく鏡餅やら七五三縄も飾ってある。
でもお正月というより、大騒ぎをするパーティーといった雰囲気。やっぱり21世紀の幕開けだもんね。打ち上げも派手に行くんだろう。
ミラーボールでしょ、横断幕でしょ、それにモールが天井を縦横無尽に巡っているし。
ううっ、変な物見つけちゃった…。
異様に目立つ『巨大くす玉』。
絶対センスおかしいって。

そして、広い空間の真ん中には、大きなテーブルがあって、食器類が並べられている。綺麗な花も活けてある。
あ、食器といえば。
私、お腹いっぱいなんだけどな。
「俺たち、ちょっと準備があるから。その辺に座って待っててくれる?他の人ももうすぐ来ると思うし」
平山さんが、慌てた様子で私に聞いた。シュウさんとナルイさんはもう仕事場へ行ったみたい。
そっかー、打ち上げの準備もするんだ。大変だなあ。
「はい。お店の中とか見てます」
「ごめんね、じゃあ」
そう言うと、平山さんは走り去っていった。
すると間もなく、他の人も到着して、入り口が騒がしくなった。
「うっわー。スッゴイ派手ー!でもカッコイー!!ねーヨシコ、ヒロミちゃん」
「はいっ、素敵ですー!!」
不思議な2人だ。
どんな豪勢な打ち上げなんだろう?
ワクワクしてきた。


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